トップ (メニュー)  >  既発表記事  >  東欧民主化その後  >  極右政権生んだポーランド民主化と自主管理労組「連帯」の末路 2006年11月
 「人間の顔をした社会主義」を標榜したチェコ共産党の自由化路線と民衆の広範な支持は1968年の旧ソ連による軍事介入で圧殺された。それから21年。1980年に北のグダンスクで火の手を上げたレフ・ワレサ率いる独立自主管理労組「連帯」が89年6月に実施された自由選挙で圧勝、ポーランド統一労働者党を下野させて一党独裁体制を崩壊させた。

この東欧民主化改革の口火を切った運動の起源は、旧ソ連共産党書記長ブレジネフの「それではソ連邦の社会主義はどんな顔をしているというのか」との怒声とともに侵攻した旧ソ連軍戦車に踏みにじられたチェコ民主化運動の代名詞・プラハの春にある。マルクス思想の再評価の動きが顕著になったチェコでは右派政権が第3党の共産党傘下青年組織の非合法化へと動く一方、ポーランドでは「連帯」の流れを汲むカチンスキ双子政権がこの10月に誕生。近隣国からは極右ファッショ連合と非難される右派連立政権の教育相がカトリック教義や進化論否定を教育現場へ導入する意向を公然と唱え、国内外から「暗黒の中世への回帰だ」とごうごうたる非難にさらされている。民主化と改革が生み出した“鬼っ子”に翻弄される旧東欧諸国の政情を伝える。 
 
 
▼ ワレサの凋落 
 
 日本ではポーランド民主化の立役者として依然英雄視されている、独立自主管理労組・連帯を率いたワレサ元議長。だが、今や本国ではすっかり過去の人となった。複数政党が立候補者を擁立した1989年の自由選挙に勝利し、ソ連型共産主義・一党独裁終焉後の初の大統領に就任した。しかし、95年の大統領選では、旧ソ連時代の統一労働者党を後継した選挙連合「民主左翼同盟(SLD)」が擁立したファシニェフスキー候補に僅差で敗北。2000年の選挙で再挑戦したものの、今度は得票率わずか0.1%弱という大惨敗を喫している。大統領権限の強化を図ろうとする強権志向が国民の失望を招き、95年選挙時にはワレサへの評価はすでに大幅に失墜していたとされる。 
 
 ソ連に完全支配されていた統一労働者党の出身で、後継の選挙組織SLDから立候補して連続当選したファシニェフスキーが95年から10年間、大統領を務めた。カトリック信者が人口の95%を占め、元来極めて保守的なポーランド国民は、国際舞台で通用する教養と見識を備えていたファシニェフスキーを労組指導者上がりのワレサよりはるかに好ましい人物とみなしたという。しかも、大統領与党・社会民主主義党(SLD−UP)は1990年代と2000年代に政権を2度も握った。 
 
▼前政権の腐敗で極右台頭 
 
 ファシニェフスキーはワレサを「反モデル」として97年に憲法改正して大統領権限にタガを嵌め、ポーランド政治を議院内閣制的に機能させた。だが一方、ドイツ、フランスが米軍のイラク侵攻に強固に反対するのを尻目に、イラク戦争を支持して占領後にはイラク派兵に踏み切った。ネオコン支配の米ブッシュ政権に「新しいヨーロッパ」と持ち上げられた2003年以降は政権内に汚職・腐敗が蔓延して国民の支持を急速に失った。ロイター通信は「ポーランドは2005年各国政治腐敗度ランキングで欧州最下位、世界70位にランクされた」と報じている。 
 
 こんな政情を背景に、2005年の総選挙では反ユダヤ主義を看板政策とする極右政党が相次ぎ勝利し、右派連立政権が発足した。さらに、与党最大会派の「法と正義(PIS)」のレフ・カチンスキ候補が同じく右派の対立候補を破って大統領に当選した。前回2001年の選挙では自主管理労組・連帯を起源とする政党勢力はすべての議席を失った。その反動と、左派前政権が腐敗で国民に疎まれてしまったことを追い風に、「連帯」の機構内にあったかつての小政党でカトリック教権を過剰に尊重する極右諸政党が連立して政権を掌握する異常事態となった。 
 
▼ 双子ファッショ政権誕生 
 
 しかも、今年10月にはカチンスキ大統領の一卵性双生児の兄ヤロスワフ・カチンスキ氏が大方の予想を裏切って首相に就任、同19日には下院は新首相を承認した。排他性が強いと評価されてきた、双子の兄弟が政権を私物化することは必至とみられている。このため、欧州各国のメディアは「ポーランドに双子ファッショ政権が誕生した」と危機感をもって伝えている。 
 
▼ 公教育の危機 
 
 カチンスキ兄弟が率いる与党最大会派PISと連立している極右政党「ポーランド家族連盟(LPR)」の党首でロマン・ギエルティフ教育相は今回の内閣改造で副首相兼任となった。新副首相は公教育にカトリック教義を導入して、これを絶対権威にしようとし始めたという。右派連立政権のアナクロニズム志向はエスカレートするばかりのようだ。 
 
 「カチンスキ双子政権が国会に正式承認された19日、ドイツ紙ユンゲヴェルトはこの異常事態を「中世に逆戻りするポーランド」との見出しの論評を掲載して、ギエレティフLPR党首らの教育政策を徹底批判した。以下はその要旨。 
 
・ 怒る教師・学生 
 
 LPR党首であるギエレティフ教育相のモラル逸脱に怒るポーランドの教師や学生らの抗議活動は収拾の気配をみせてない。この1週間は連日、極右政治家への抗議デモが各地で行われている。ブロニアツ・ポーランド教員同盟議長は「彼は自分の政治理念実現のために地位利用しているだけで、教育相としての本来の義務を一度たりとも果たそうとしたことがない」と憤激している。 
 
・ 反ユダヤ主義者取り込む 
 
 昨年の総選挙の前哨戦段階で、極右のLPRは、反ユダヤ主義やネオファシズムを標榜する諸団体を取り込み、各団体の代表にさまざまな利益誘導を行った。一例を挙げれば、反ユダヤ団体の幹部に対し、国営テレビ局の副会長ポスト提供を持ちかけた。 
 
 この団体幹部はユダヤ人排斥を急進的に主張する雑誌の編集責任者である。しかも、その出版元は過激なネオファシズム組織「ポーランド国家再生(NOP)」の中央機関だった。しかも、雑誌の記事で「民主主義の本質は虚偽と欺瞞にある」と主張する紛れもないネオファシストだったのである。 
 
 これに呼応して、LPRのある著名な国会議員はついこの間、ポーランド文学の反ユダヤ化を促進しようと声高に呼びかけたばかりである。 
 
・ 教皇パウロ2世の政治利用 
 
 LPRのギエルティク党首は、ポーランド人として初めてローマ教皇となった故パウロ2世の説教や講演のテキストを教材として使用しようと提案した。これを受け、カトリック教会は、学校のコンピューターでのインターネット版作成の許可を与えた。副首相を兼任する教育相は「この愛国的教育はわが国の学生・生徒の国家主義化に貢献する。特に反抗的な学生の思想転向に役立つ」と公言している。 
 
 かつての統一労働者党の中核組織だったポーランド教員同盟は「(この一連の反動的言動を)明白な憲法違反」として司法判断を求める方針を打ち出した。学者、アカデミシャンらの組織も教員連盟に全面的に同調している。 
 
 ・進化論の否定 
 
 さらに、極右政権は進化論を敵視する教育政策を打ち出した。教育相の実父で欧州連合(EU)議会議員のマシエフ・ギエルティク氏はこのほど、ダーウインの進化論に代えて天地創造説を導入する教育プランを助成すると発言。LPRの副党首に至っては進化論の根拠を疑うとまで言い出す始末である。ワルシャワの教師、学生らはデモ行進で「ギエルティク一族の出自こそ猿そのものだ」と気勢を上げた。 
 
 ▼ 冷笑する近隣国 
 
 ワルシャワからの情報によると、極右連立のカチンスキ政権は権力私物化の恐れを抱かせてきた一卵性双生児が大統領と首相の座を独占したことで国民の支持を急激に失いつつあるという。しかし、カトリック教会に隷属するポーランド国民は、民主化の旗手だった「連帯」内部から極右政権という“奇形児”を生み出してしまった。一方、カトリック信者は人口の26%、無信仰者が60%を占めるチェコ政府もポーランドの珍事を冷笑しているようだが、「赤いプラハの春」弾圧で同様に欧州を中心に国内外からの非難の矢面に立っている。旧東欧圏はどこに向かおうとしているのか。

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